――波間に響くのは、潮騒か、記憶か、それとも

下関市の竹崎地区。
古くから漁業が盛んで、今も港町特有の静けさと生活感が入り混じる場所だ。
昼間は、漁船の音、観光客の足音、潮の匂いで満ちている。
しかし、夜になると一変する。
人気の消えた波止場。
釣り人が帰ったあとの静かな海面。
街灯の光が水面に線のように伸び、
冷たい潮風が吹き抜けるだけの、沈黙の港。
この竹崎の旧漁港には、
ある奇妙な噂が存在する。
■「夜の海から“電話の呼び出し音”が聞こえてくる」
しかもその音は、
岸壁のどこから聞こえるのか誰にも分からず、
何年も前から地元では“自然現象では説明できない音”として語られてきた。
今回の記事では、
竹崎で語られる “海の呼び出し音”現象を、
地形・音響・潮流・光・心理学・歴史的背景のすべてから
徹底的に深掘りしていく。
■山口都市伝説15選
◆【第一章】海から“電子音”が聞こえるという異常

噂の特徴は次の通り、非常に具体的だ。
■①「プルルル……」と、古い電話のような呼び出し音
「昔の電話機みたいな音」
「電子音というより、機械音に近い」
これは自然界の音にしては不自然な形。
■② 海面のどこかで鳴っているように聞こえる
音の方向が曖昧で、
“浮かんでいるように響く”と証言される。
■③ 1人ではなく複数人が同時に聞いている
これは錯覚ではなく、
“何かが実際に鳴っている”ことを示唆する。
■④ 音は5〜7秒ほど続き、突然途切れる
「波が消したように不自然に止まる」
自然音の連続性とは違うパターン。
■⑤ 海が静かな日ほど聞こえやすい
→ 風が弱く、波音が小さい夜に多発。
この噂は、地元では古くから伝わっている。
実は“海から音が聞こえる怪談”には
全国的に複数の例があるが、
電子音に近い とされるものは珍しい。
竹崎はなぜ、
そんな不可解な音を生み出すのか?
◆【第二章】竹崎の旧漁港は“音が集まりやすい海”だった

まず地形を分析すると、
この噂が生まれた理由の一端が見えてくる。
竹崎の海は、
湾奥にあたるため波が穏やかで、
三方を陸地に挟まれた半閉鎖的な形をしている。
●音が逃げにくい
→ 水面反射で戻ってくる
→ デジタル音のように聞こえる瞬間がある
●風が弱い夜は特に“音が浮かぶ”
→ 音の方向感覚が失われる
●漁港特有の金属音・機械音が変質する
→ 波で歪むと電子音に聞こえることがある
だが、それでも「電話の呼び出し音」のように聞こえるのは不自然だ。
ここで重要なのが、
漁港周辺の“人工物の性質”だ。
◆【第三章】旧漁港に残る“金属の反響”が生む異音

漁港の岸壁やスロープには
金属製の梯子、係留具、古いフェンスなどが使われている。
これらが海水で劣化し、
波に合わせて微妙に振動することがある。
特に、
■金属が弾く高音
■固定具の緩みで生じる繰り返し音
■水面反射による増幅
これらが重なると、
「プル、プルルルル……」
という“呼び出し音に似た連続音”が発生する可能性がある。
だが、問題はここからだ。
竹崎で語られる怪異の特徴は
「単なる連続音ではなく“誰かからの呼び出し”のように聞こえる」
という点。
自然現象の音が“意図的な電子音”に聞こえる理由は、
地形だけでは説明しきれない。
◆【第四章】音の正体は“海底からの反響”という説

竹崎周辺の海底は、
泥と砂利が混ざった柔らかい地質をしている。
この地質は、
波音・金属音・人工的な環境音を吸収しやすく、
反射時に音を不自然に細く変質させる。
その結果、
●電子音のように
●機械的なパターンで
●方向が分からない状態で
耳に届くことがある。
これは非常に珍しい自然音響現象だが、
実例がゼロではない。
しかし、竹崎には
もう一つの“奇妙すぎる特徴”がある。
◆【第五章】音が聞こえたあと“必ず波が静まる”

複数の証言で一致しているのが、
■「呼び出し音が鳴った直後、波が止まるように静かになる」
という現象。
「ザザァ……という通常の波音が一度消える」
「ほんの数秒だけ、海面が“音を失う”感覚がある」
これは自然現象では説明しづらい。
なぜなら、
波が急に静まるには大きな外力が必要だが、
実際には海面に変化は起きていない。
音だけが“不自然に欠落”する。
この現象は、
●気象条件の変化
●波の干渉
●海底の地形効果
●聴覚の補完現象
として説明されることが多いが、
“呼び出し音 → 静寂”の順序が一致しているため、
地元では昔から
「あれは海が何かを知らせている音じゃないか」
と語られてきた。
◆【第六章】古い漁師の間では“海の声”と呼ばれていた

この怪異はSNSで広まったものではなく、
古くから地元の漁師の間で噂されていた。
古い記録をたどると、
「夜ノ波止場ニテ、海ヨリ音聞コユ。
コレヲ“海ノ声”ト云フ。」
という記述が残っている。
ここで注目すべきは、
当時は電話機も電子音も存在しなかった時代。
つまり、
昔から“規則的な不自然な音”が
夜の竹崎の海に響いていたということだ。
時代に応じて解釈が変わっただけで、
本質はずっと同じ現象が続いている。
◆【第七章】“海の呼び出し音”はなぜ消えないのか?

竹崎でこの噂が数十年も続いている理由は、
大きく分けて3つある。
■① 自然音と人工音の境界にある音だから
電子音のようで、
自然音のようでもある。
この“曖昧さ”が怪異を生む。
■② 音の方向が不明で、特定できない
人間は方向の特定できない音に恐怖を感じる。
これは進化心理学的に当然。
■③ 「海から何かが呼んでいる」ように聞こえる
音が“意味性”を帯びてしまう構造。
自然現象が偶然に生んだ
“意味のある音”
ほど、怪談として強く残るものはない。
◆【第八章】心理学から見る“意味のある音の恐怖”

人間の脳は、
不規則な音に“意図”を読み取ろうとする。
これを パレイドリア(誤認知) といい、
例えば風の音を「声」に聞くのもこれだ。
竹崎の“呼び出し音”は、
この誤認知が極端に起きやすい条件を揃えている。
●静かな夜
●薄い霧
●視界の悪い岸壁
●反射光で揺れる水面
●方向感覚の消失
音の“意味”を誤って捉えた瞬間、
機械音のような“呼び出し”に聞こえてしまう。
しかし……。
それでも“複数人が同時に”
同じパターンの電子音を聞いた例がある。
心理現象だけでは説明できない部分が
確かに残っているのだ。
■山口都市伝説15選
◆【終章】海から聞こえる音は、現象か、記憶か、それとも
竹崎の旧漁港で語られる
“海からの呼び出し音”の正体。
地形
潮流
金属振動
水面反射
心理
古い伝承
複数の要素が複雑に重なり合って
この“奇妙な電子音”を生み出しているのは間違いない。
しかし、
どれほど科学的に説明を求めても、
どうしても残る“違和感”がある。
なぜ電話もない海から
「プルル……プルルル……」
という音が鳴るのか。
なぜその直後、
波音が途切れるのか。
なぜ音は
“誰かを呼ぶように”響くのか。
海には、
人が説明できない“静かすぎる瞬間”がある。
もしあなたが竹崎の旧漁港を訪れることがあれば、
夜の海をよく聞いてほしい。
波の音がふっと消えたとき、
あなたの耳に——
かすかな電子音のような呼び出しが
届くかもしれない。





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