――紙の眠る部屋で、なぜ“声だけが動き続ける”のか

山口県庁の旧庁舎には、
現在は使われなくなった部屋や通路が複数存在する。
その中でも、ひそかに語り継がれてきた噂がある。
「旧庁舎の地下書庫では、人の気配がないのに“囁き声”が移動していく」
行政都市伝説というジャンルの中でも、
この噂は極めて珍しい。
なぜなら
“事件性もオカルト性も持たないのに、不自然な音だけが残り続けている”
というタイプだからだ。
山口県庁の旧庁舎が建てられたのは昭和中期。
それ以降、時代ごとに改装が行われ、
部署移動や耐震工事に伴い使われなくなった部屋も多い。
その“空白の時間”が積み重なった場所こそ、噂の舞台――
地下書庫である。
この記事では、
旧庁舎地下で語られる“囁きの移動現象”を、
構造・音響・記録・心理・歴史の五方向から解析していく。
◆【第一章】旧庁舎の地下書庫は“音が移動する”構造をしていた

地下の書庫は、
もともと書類保存のために
- 厚いコンクリート壁
- 地下特有の閉鎖空間
- 空調の反響
- 細い通路
- 棚が何列も並ぶ迷路のような構造
これらによって、
“音が本来の方向と別の方向へずれる”という特殊な環境になっていた。
●棚と棚の間で音が跳ね返る
書棚は金属製で、三列・四列と並んでいる。
そのすき間に空気の通り道ができるため、
わずかな音でも遠くまで移動する。
まるで誰かが棚の間を移動しているような錯覚。
●空調の微音が声帯の周波数に近い
閉鎖空間の低音は、
人の囁き声に似た波形になることがある。
特に動いている空調が棚に遮られると、
“移動している声”に聞こえる。
●書庫独特の「紙の反響」が生む歪み
紙の束は音を吸収するが、
一定の周波数だけは跳ね返す。
これが“声のような抜けた音”を作り、
多くの人が「囁き」に感じてしまった。
だが、ただの環境音で
“複数の職員が同じ時間に同じ現象を聞いている”のは奇妙だ。
この噂は、そこから一気に深まっていく。
◆【第二章】囁きが聞こえるのは“中層の通路”に限られている

調査されている噂は、
地下書庫全域ではなく特定の通路に集中している。
位置としては
- 書庫入口から2列目
- 窓のない中層部
- ライティングの影が薄暗い地点
ここに立つと、
どこからともなく“スー…スー…”という空気の音が
細く伸びてくるという。
職員経験者の証言では、
「人が本棚の裏側を歩いているように聞こえた」
「左右どちらから来るのか分からない」
「後ろから話しかけられた気がした」
など、方向性が曖昧な音が特徴。
●なぜこの通路だけ音が“生き物のように動く”のか?
その理由は
書庫全体の構造の“クセ”にある。
- 左右非対称の棚配置
- 古い配管
- 電灯の角度
- 空気の流れ道
- 経年劣化した壁材
これらが組み合わさることで、
一度生まれた微音が“蛇行して進む”ような音響反射を起こす。
つまり、
囁きがゆっくり移動しているように聞こえるのだ。
しかし噂はそれだけでは終わらない。
◆【第三章】“囁き”が聞こえるのは深夜ではなく、夕方である

怪談の多くは夜に集中するが、
この噂の特徴は、
囁きがもっとも強く聞こえるのは夕方17〜18時の間
という点だ。
なぜこの時間帯なのか?
●空調が切り替わる時間帯
旧庁舎では、
“節電モード → 夜間モード”
への切り替えが17時台に行われる。
この瞬間に出る微細な風音が
棚を抜けながら変質する。
●職員が少なくなることで音の反響が増える
日中は人の出入りが多いため、音が吸収される。
しかし夕方は静かになるため、
風の音と反響の音が倍増する。
●地上の雑音が減り、地下の音が際立つ
夕方の県庁周辺は静まり、
車・人・外の生活音が減る。
この静寂の中で、
空調と棚が生む“微音”が際立つ。
結果、
誰もいないのに囁きが移動しているように聞こえる。
だが、この噂には
「書庫の奥に入るほど声がハッキリする」という点がある。
なぜ奥へ進むほど音が強くなるのか?
◆【第四章】地下書庫の奥は“音が逃げない袋小路”だった

地下書庫の奥側は
構造上の理由で、音が逃げにくい“音圧の溜まり場”になっている。
●二方向から壁に挟まれた空間
こうした構造は、
ほんの少しの風音でも壁面で反射して
人の囁きのように変質する。
●棚の隙間から抜ける風が、人の息に似る
棚と棚の間は、
わずか数cmの空気通路になっている。
空調の風がここを通ると、
- 息継ぎのような音
- 歩く人の呼気のような音
- 小さな声のような音
が作られる。
●足音のような振動が重なる
書庫の床はコンクリートで固い。
上階で人が歩くと
床全体が微振動し、
それが棚の金属部に伝わって“トントン…”という小さな音を出す。
この音と、反響音が重なると
まるで“誰かが書庫の中を歩いている”ように聞こえてしまう。
しかし、噂をさらに深くする要素がある。
◆【第五章】書庫の中では“影の動き”の錯覚も報告されている

囁き声だけではない。
複数の証言で一致する現象がある。
「視界の端で影が動いた気がした」
「本棚の間に誰かいたように見えた」
「黒い揺れが通路を横切った」
だがこれは“人間の錯覚”が作る現象だ。
●棚の影がゆっくり伸びる
古い照明は蛍光灯のため、
電圧が安定せず微妙に揺れる。
揺れる光は、
細長い棚の影を左右に動かし、
“誰かが歩いている影”のように見せる。
●目のピントが遅れて“動く影”を作る
暗い場所では視覚が遅れ、
静止している影を動いているように捉える。
これは
「暗所視の残像現象」
と呼ばれる。
●地下は湿度が高く“影が濃く見える”
湿った空気は光を吸収し、
影をより濃くする。
その結果、
ただの影に“存在感”を感じてしまいやすい。
だが、ここまでの現象の多くは
科学的に説明できる範囲のものだ。
問題はここから――
書庫の一角だけにある“声の停止現象”。
◆【第六章】囁きは“ある棚の前だけで途切れる”

複数の証言で一致している現象がある。
■書庫奥の“3列目左端の棚”の前に立つと、囁きが突然消える。
まるでそこだけ無音の空間のようになるという。
これは極めて不思議だが、
専門的に見ると理由は存在する。
●棚の金属構造が“音の吸収壁”になっている
この棚だけ
・経年劣化の歪み
・金属板の反り
・内部補強の追加
などにより、
**音を吸収する異常な“壁状態”**になっている。
音はぶつかると跳ね返るのが通常だが、
この棚だけは音を遮断し、
背後に逃してしまう。
そのため、
“囁きがそこで突然途切れる”という不思議な現象が生まれている。
◆【第七章】囁きの正体は“音”か、それとも“記憶”か

地下で起きる多くの現象は説明できる。
しかし、どうしても説明できない証言がある。
「囁きが耳元まで近づいてきてから消えた」
「足元の影と同じ位置で音が止まった」
「誰もいないのに、声が横を通り抜けた気がした」
これらは“風音の移動”だけでは説明できない。
人間の脳は、
曖昧な音に“意味”を与えようとする。
地下という閉鎖空間、
紙の匂い、
静寂の中に残る微振動。
これらの条件が揃ったとき、
脳は小さな音を“囁き”として解釈し、
その囁きに“存在”を見出すことがある。
◆【終章】地下書庫の囁きは、何を語り続けているのか

旧庁舎の地下書庫は、
数十年分の行政の記録が眠っていた場所だ。
- 書類の重み
- 静寂
- 空調の風音
- 棚と棚のすき間
- 光の揺らぎ
- 歩く振動
- 地下特有の閉塞感
これらが重なり合うことで、
人は“存在しないものの声”を聞く。
科学で説明できる部分と、
どうしても説明できない部分が同時に生まれる場所――
それが
山口県庁・旧庁舎地下書庫である。
もしあなたが、
旧庁舎の歴史を調べるために地下へ降りる機会があれば、
棚と棚の間をゆっくり歩いてみてほしい。
紙が呼吸するような音と、
空調の細い風音が重なったとき――
あなたの耳元で、
“誰かがささやくような音”が
ひっそりとついてくるかもしれない。
関連情報:山口県庁(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/山口県庁




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