■ 導入──「……今、聞こえた?」

山口大学医学部の手術棟について語るとき、人々は決まって声を潜める。
医療の最前線であり、命の境界線を扱うこの建物には、実は昔から“ある噂”がついて回る。
——夜中、誰もいない手術室でノイズが鳴る。
——インターホンが勝手に開く。
——心電図モニターが人のいないベッドで反応する。
そんな話、医学的でも科学的でもあるはずがない。
少なくとも、僕が初めてこの噂を耳にしたときはそう思っていた。
だが、山口大学医学部の手術棟を深夜に取材した日のことを、僕は今でも忘れられない。
白く光る長い廊下。
反響する自分の足音。
わずかに漂う消毒液のにおい。
天井から落ち続ける「ピ……」という小さな電子音。
——その音が、僕が歩くたびに、ついてきた。
あの日のノイズの意味を、僕はまだ解き明かせていない。
そして何より怖いのは、
その音が、“死者の声”ではないかもしれないということだ。
■ 山口都市伝説15選
■ 第1章|手術棟の噂はどこから来たのか

山口大学医学部の手術棟では、定期的に奇妙な報告が上がる。
● ① 無人の手術室でノイズが鳴る
誰もいない部屋の電気を消しても、
モニターの電源が勝手に入ったり、
ピーという電子音が鳴ったりする。
電子カルテの端末が動いた記録が残ることもあるという。
● ② インターホンが勝手に応答する
深夜帯の当直医が、
「何かご用ですか?」
と返すと、
——カサ……ッ
——ザ……ザァ……
そうした、“呼吸のようなノイズ”が返ってくるという。
● ③ 心電図の波形が動く
使用されていないベッドの前で、
心電図モニターが突然反応する。
波形が一瞬だけ、
人の心拍のような“リズム”を描く。
医療従事者たちがそれを「気のせい」と笑い飛ばす一方で、
「いや、あれはおかしい」と話す者もいる。
彼らは皆こう続ける。
「手術棟は、死者より生者の“声”が残りやすい」
この言葉の意味を、当時の僕は理解できなかった。
■ 第2章|この手術棟で起きた“特異な出来事”

僕が取材した範囲内で、
特に印象的だった話がいくつかある。
● ケース1:手術中に聞こえた“第三の声”
ある執刀医の証言。
「手術中、突然モニターがノイズを出したんだ。
そのノイズの中に……声が混じっていた」
「何て言っていたんですか?」
僕がそう聞くと、彼は静かに答えた。
「……『やめて』 って」
もちろん実際には、ノイズに人の声が混ざることなど考えにくい。
だが医師は続けた。
「患者の心臓に触れた瞬間だったんだよ。奇妙だろ?」
僕はぞわりと背中が粟立った。
医学では説明できない領域は確かに存在する。
だが、医師がこの種の証言をするのは珍しい。
それほど強烈な体験だったのだろう。
● ケース2:亡くなった患者の送信ログ
電子カルテには、患者が亡くなった後に操作されることはない。
だが、ある看護師はこう語った。
「亡くなった患者さんのIDで、深夜に“未送信メモ”が残っていたんです。
送信元の端末は手術室の端末。でも、手術室は施錠されていた。」
メモの内容は空白。
しかし、送信時刻だけが“はっきりと刻まれていた”。
——午前3時33分。
その時刻に手術棟にいた者はいない。
● ケース3:インターホンの“呼ぶ声”
深夜の当直医室に鳴るインターホン。
誰もいないはずの術野からの呼び出し。
受話器を取ると、
ノイズ混じりの微かな音がしたという。
「反応しているのは……呼吸音に近かった」
医師はそう言った。
■ 第3章|ノイズは“機械の異常”か、それとも……

僕が手術棟を歩いているときにも、
奇妙なノイズは確かに鳴った。
ただの電気的な揺らぎ、
湿度による機器の反応、
それらが重なればあり得る現象だ。
だが、僕はそれで片づけることができない理由がある。
ノイズが、僕の歩く速度に合わせて鳴ったからだ。
ピ……
……ピ……
…………ピ。
僕が歩くたびに、
少し遅れて電子音がついてくる。
あれは、
孤独な建物の呼吸だったのか。
それとも、
かつてこの手術棟を“必要としていた何か”だったのか。
僕は、今でも答えを出せない。
■ 第4章|医学的に説明できることと、説明できないこと

この手術棟の怪異をすべて霊のせいにするつもりはない。
事実、医学部の研究者が指摘した“合理的な原因”もある。
● ・機器のバックアップ電源の誤作動
特に古いモニターは過剰反応を起こしやすい。
● ・無線の混線(他部署の心電図波形との干渉)
医療機器が密集する病院では珍しくない。
● ・湿度による静電気ノイズ
消毒液や電解質の影響で発生しやすい。
だが、それでも説明できない現象が残る。
- 錠が閉まった手術室の端末で操作ログ
- 無人の部屋からのインターホン
- 心電図の“生きたようなリズム”
- 声のように聞こえるノイズ
これらを全て“誤作動”と切り捨てるには、無理がある。
■ 第5章|この手術棟に“声が残る”理由

医療従事者はよく、
「手術棟は生者の気配が濃い」
と言う。
手術の現場は、
命が生まれ変わる瞬間と、
命が終わる瞬間が交錯する場所だ。
人体の境界線が揺らぐ空間。
そこには、生の記憶が残りやすい。
それが“声”として残るのか、
“ノイズ”として残るのか。
そう考えると、あの日聞いた電子音は、
ただの機械音とは思えなくなる。
■ 第6章|僕が最後に聞いた“あの音”

手術棟の出口へ向かう途中、
インターホンが突然鳴った。
僕はその瞬間、
本能的に振り返ってしまった。
手術室の扉は硬く閉ざされ、
照明は消えている。
受話器を取り、
耳を当てた。
ザ……ッ
……ザア……
……ア……
ノイズが、
ゆっくりと、一定のリズムで鳴っている。
まるで、
誰かが息をしているように。
そのリズムは、
僕の心拍より少しだけ早かった。
僕は受話器を置いた。
だが、その時気づいた。
ノイズのテンポが、受話器を置いた直後に“止まった”ことに。
まるで——
僕の反応を見ていたかのように。
■ 山口都市伝説15選
■ 結論ーーそのノイズは、死者の声ではない
山口大学医学部の手術棟で起きるノイズは、
単なる怨霊や怪談では説明できない。
むしろ、
生者の“断片”がこびりついた場所で起きる現象
だと僕は考える。
痛みを訴える声。
助けを求める声。
生きたいと願った声。
それらが電子音や振動となり、
機器を通して、
今もなお手術棟のどこかに残り続ける。
だからこそ、あのノイズは決して幽霊ではない。
むしろ——
まだこの世界に未練を残す“声なき生者”の気配なのだ。
僕はそう思う。
そして今でも耳の奥で、
静かにあの電子音が鳴る。
ピ……
……ピ……
…………ピ。
「……まだ、いますか?」
問いかけても、
返ってくるのはノイズだけだ。
だがそのノイズは、確かに僕に向けられていた。
※参考資料
・厚生労働省(医療機器の安全管理)https://www.mhlw.go.jp/
・総務省(電波干渉・電磁ノイズ)https://www.soumu.go.jp/
・日本心理学会(錯覚と認知)https://psych.or.jp/
・日本光電工業(医療モニター技術)https://www.nihonkohden.co.jp/
・ナショナルジオグラフィック(認知の錯覚特集)https://natgeo.nikkeibp.co.jp/





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