◆導入──その視線は、深海の底からゆっくりと“浮かび上がった”

夜の海は、どうしてあんなに静かなのだろう。
与那国島の岬に立つと、
風は微動だにせず、
波の音は、まるで海そのものが息をひそめているかのように弱々しい。
その静けさの中で、僕は“気づいてしまった”。
——海の底から、何かが僕を見ている。
見下ろされるでも、見つめられるでもない。
ただ、じっと“そこにある”何かの視線。
暗闇に溶けた影のような、
海と同化しているような、
しかし確かに“生きているもの”の気配。
後に島の古老が静かに語った。
「……お前さん、見られたんだねぇ。
海底都市には“守り人”がいるよ。
見える者は、選ばれている。」
あの夜の暗闇は、
ただ深いだけの暗さではなかった。
触れるような、まとわりつくような、
こちらの思考を覗き込むような暗さだった。
あの日の海底は、まだ語り尽くされていない。
第一章:海底都市——「沈むべきではなかったもの」が沈んだ場所

1986年。
新嵩喜八郎氏が見つけた“巨大な階段”は、
ただの地形とは思えない異様な存在感を放っていた。
初めて潜ったダイバーが驚くのは、
その規模よりも、
**「意図があるように見える不気味な規則性」**だという。
段差は整い、
面はなめらかに削ぎ落とされ、
城壁のような垂直面が突然現れる。
まるで、独自の“文明の手癖”を持った職人が、
千年前に刻んだ跡のような質感。
しかし、専門家は言う。
「これは自然が作り出した節理だ」と。
自然地形説と人工遺跡説。
どちらが正しいかはまだ分からない。
ただ——
どちらにせよ、“不自然に”感じる。
そして、海底都市の“中心部”に近づくほど、
ある奇妙な感覚が強くなる。
「……誰かが立っている。」
そんな馬鹿げた錯覚を抱くダイバーが、後を絶たないのだ。
第二章:“守り人”という存在──影の輪郭が、ゆっくりとこちらを向く

都市伝説として語られる“守り人”の目撃談には、奇妙な共通点がある。
「人影だと思って近づいたら、
海水が“ざわっ”と震えた。
影は動かず、ただこちらを向いていた。」
海中で「こちらを向いている」と感じるのは、異常だ。
光も揺らぎ、影も流れる。
方向も距離も曖昧になる。
にもかかわらず、
ダイバーたちは一様に「見られていた」と語る。
ある者は、こう述べた。
「動いていないのに、“顔”だけがこちらを向くような……
角度がずれていく……そんな気配があった。」
——深海の影は、顔を持たない。
だが、視線は持つ。
それが“守り人”と呼ばれる理由だ。
●見る者は選ばれている
古老が語ったもう一つの言葉がある。
「守り人は、人を追わんよ。
選んだ者だけを、じっと見つめるんだ。」
選ばれる基準は分からない。
ただ、
「視線を感じた者は、二度と忘れられなくなる」
と言われている。
海の底から浮かぶ“存在しない視線”。
それは、人の心の奥へ染み込むように宿る。
第三章:境界の島──最西端が生む“異界への入り口”

与那国島は、日本という国の端に位置する。
端であるということは、
中央の論理が届かない“境界”であるということだ。
境界は、異界が滲みやすい。
この島には、海の向こうから来る“客神(まれびと)”の信仰が残る。
そして、海そのものが“境界の象徴”として扱われてきた。
海の彼方は死者の国。
波の向こうは異界。
深海には禁忌が潜む。
海底都市が“都市”として語られるのは、
ただ形が似ているからではない。
島の人々は、
海の底を“向こう側”と捉えてきた文化を持つ。
だから、
“守り人”はただの怪異ではない。
境界に立つ者。
扉の番人。
来てはならないものを拒み、
戻るべき者を送り返す存在。
島の民俗が、海底都市に“意味”を与えているのだ。
第四章:科学が沈黙するとき、影は言葉を得る

科学的に分からないものが出た時、
人は恐怖を“物語”で補う。
海底都市はその典型だ。
自然地形にしては整いすぎ、
人工物にしては証拠が足りない。
両者の境界に漂う曖昧さが、
影に“命”を吹き込んだ。
「守り人は、海底都市が沈んだ理由を知っている」
「都市を守っていた民の魂が、今も見張っている」
「近づいた者を“記憶”している」
証拠などない。
けれど、
“感じてしまう”恐怖は消えない。
科学が説明できることは、多い。
しかし、
説明できない“残りカス”は、いつも人の心に影を置いていく。
その影が、いつしか名前を得る。
——守り人、と。
第五章:証言集──海底で視線を感じた者たち

ここでは、取材で得た“視線を感じた者”の証言を記す。
●証言1
「遺跡の“道”みたいな場所を抜けた時、
後ろから“すーっ”と流れる影を見た。
他のダイバーはいなかった。」
●証言2
「水温が急に冷たくなって、
暗闇の奥で“立っている何か”が見えた。
見た瞬間、息が苦しくなった。」
●証言3
「写真に白い縦線が映っていた。
何度消しても、そこだけ残る。」
影は、形を持たない。
けれど、
意図だけは持っているように見える。
ダイバーの間では、
“守り人”の近くではカメラが誤作動する、
という噂まである。
信じるかはあなた次第だ。
第六章:心理と闇が形を与える“守り人”──あなたの背後にも

深海の恐怖は単純だ。
暗い
冷たい
沈黙している
逃げられない
何がいるか分からない
その条件がそろうと、
人は“存在しないはずのもの”に形を与える。
心の底に潜む無意識が、目の前の闇に反映されるのだ。
海底都市は、その反映を増幅する構造を持っている。
直線。
影が落ちる角度。
音のない空間。
そこに立つと、
「誰かがそこにいた気配」だけが、不自然に——濃い。
守り人とは、
海底都市が人の心に映し出す“深層の影”なのかもしれない。
しかし、
心理学では説明できない瞬間がある。
視線を、感じてしまった瞬間だ。
見える必要はない。
そこに何かが“立っている感覚”。
背筋を撫でるような冷たさ。
胸の奥に沈む圧。
あなたがその感覚を覚えたなら、
守り人はすでにあなたの背後にいる。
第七章:終章──海は覚えている。あなたが覗いたことを。

島を離れる日の朝、
僕は海を見つめながら思っていた。
あの視線は、
僕を見ていたのか。
それとも、
僕の“背後”を見ていたのか。
分からない。
ただひとつ確かなのは、
深海は、訪れた者を忘れないということだ。
海の底に沈む都市は、
今日も誰かをじっと見つめている。
あなたがこの記事を読み終えた今、
その視線が——
どこかで
あなたにも
そっと
触れているかもしれない。
——あの日の闇は、まだ語り尽くされていない。
📖沖縄の都市伝説10選





コメント