【序章】

——その窓は、誰のために灯るのか?
北九州市役所。
昼間は、市民の相談や窓口手続き、会議が続く「普通の行政施設」である。
だが——この建物にはひとつだけ、昔から語り継がれる奇妙な噂がある。
「深夜、議会棟の上階に“ひとつだけ”明かりが点く。」
消灯時間はとっくに過ぎている。
議員もいない。
職員もいない。
夜間は警備員が巡回するだけ。
にもかかわらず、
議会棟の端の窓だけが、ぽつりと黄色く光る。
その光は、
誰かが机に向かっているようでもあり、
誰かが立ったまま窓の外を見ているようにも見える。
しかし、警備員がその階に向かうと——
部屋は真っ暗で、鍵は閉まっている。
光の正体は何なのか?
誰が点けているのか?
そして、なぜその窓だけ“深夜に灯る”のか?
この記事では、
北九州市役所の構造、歴史、政治の影、建築的特徴、
そして噂が残されてきた心理的背景から
「夜の議会棟の窓」
という都市伝説の正体に迫っていく。
第一章|北九州市役所の“特異な構造”と、議会棟に残された空白

北九州市役所は本庁舎と議会棟が分かれた構造を持つ。
この“二棟構成”が、噂の根本にある。
■ 本庁舎
行政事務・窓口・部署が入る、昼間ずっと人が動く場所。
■ 議会棟
議員控室・会議室・委員会室・本会議場。
会期外は人が少なく、市役所の中でも特に静か。
議会棟は、
“日中は活動し、夜は完全に沈黙する建物”
として設計されている。
だが、この静けさこそが
都市伝説を生む温床になった。
■ 議会棟には「誰も使わない階層」がある
議会棟の最上階……
正式な会議室でも議員控室でもない、
用途が曖昧な“予備階層”が存在する。
これが噂で“深夜に灯る窓”とされた部屋だ。
建物図面では“予備室・資料保管室”などと書かれるが、
実際にはほとんど使われていない。
職員の話では——
「あの階は静かすぎて、昼でも行きたくないんですよ……」
という声もある。
なぜ静かすぎるのか?
理由は簡単で、
設計時に使われる前提で作られたものの、
結局ほぼ空室になった区画
だからだ。
広いのに、誰も使わない。
暗いのに、照明が妙に強い。
こういう部屋は、一般的に“噂の発生点”になりやすい。
第二章|“深夜の灯り”の最初の目撃者は誰だったのか?

この噂が広がったきっかけは、
夜間警備員の証言だった。
北九州市役所は広く、
夜間は複数名の警備員が巡回している。
その一人は、こう語る。
「深夜1時半ごろ、議会棟の上階の端の窓に明かりがついていました。
誰かが残ってるのかと思って電気を消しに行ったんですが……
到着したときには真っ暗でした。」
別の日には、別の警備員がこう証言している。
「議会棟の窓のひとつが、
書類をめくるような影が揺れているのが見えた。
行ってみると、机も書類も何もない空室だった。」
これらの証言をまとめると——
■光は確かに灯る
■影が動いて見えることがある
■しかし部屋は空で、鍵すら閉まっている
■光は数分〜数十分で消える
「誰かがいた」のではなく、
「何かが光を出している」のでもなく、
光が“勝手に現れて消える” のだ。
この現象の説明として、
3つの説が浮上していく。
第三章|【説①】議会棟のガラス構造が生む“反射光の怪”

議会棟の上階には、
外光を多く取り込むために
“特殊な角度のガラス”が使われている。
夜間、このガラスが
周辺のビルの光、道路の車のライト、
さらには市役所本庁舎の反射光を受けることで、
「内部の光のように見える現象」
が起こることがある。
これは建築的に説明可能な現象だ。
しかし、重大な問題がある。
その時間帯、付近のビルも道路もとっくに消灯している。
反射光として説明できない“光源がない光”が
目撃され続けているのだ。
第四章|【説②】議会棟の上階は“時間の流れがズレる”

この都市伝説の中でも特徴的なのは、
「光るのは深夜2時〜3時の間だけ」
という点だ。
この時間帯は
都市の“底”がいちばん沈む時間帯
とも言われる。
・電波が弱くなる
・空気が冷え切る
・光源がほぼ消える
・周囲の建物の活動がゼロになる
つまり、
都市の「時間が最も薄い」状態になる。
この環境では、
建物の光が
時間差で外へ漏れる幻影
のような現象が起きることがある。
・数秒前の光がガラス内で反射して遅れて見える
・人影のような反射が時間差で外に浮き上がる
これは科学的には
“残光現象”や“時間反射”として説明できる。
だが、この現象は
光源が存在するはずの時間帯にしか起きない。
深夜2時、議会棟は完全に消灯している。
つまり、この説も決め手にならない。
第五章|【説③】議会棟に残る“政治の影”が光を生む

北九州市は政令市の中でも
政治的対立が多かった時代がある。
派閥争い、議会の紛糾、
激しい選挙、
予算を巡る対立、
市長と議会の衝突。
議会棟はその“政治の緊張”を最も濃く吸収してきた空間だ。
政治が建物に残すものは、
怨念でも霊でもなく——
“圧”と“気配”である。
深夜の議会棟は、
政治の余熱が冷え切らずに沈んだ時間が続く。
その“沈黙の圧”が、
ガラス・蛍光灯の反射・外の灯りなど、
わずかな刺激を増幅させる。
結果として——
「誰もいない部屋に光が灯る」
という現象が、
完全に自然な現象として起こり得るのだ。
これは北九州市役所の議会棟が
長年“政治の苦しみの現場”だったことが影響している。
第六章|議会棟の“光る部屋”はどの部屋なのか?

職員の証言をもとにすると——
■光が点くのは議会棟の最上階「端の部屋」
■形は長方形
■窓の数は1〜2枚
■普段使われていない
■“何も置かれていない空室”であることが多い
この部屋に関するさらなる噂がある。
「あの部屋は昔、議員用の控室だった。」
「ある議員が亡くなってから空室になった。」
「誰も使わなくなったのに、電気だけが時々点く。」
現役議員の名前は一切出ない。
だが、昔の北九州政界を知る人はこう語る。
「あの時代、議会は夜中まで暗闘していた。」
「部屋に帰れず議会棟で朝を迎える議員もいた。」
政治が最も濃かった時代、
議会棟は寝泊まりされるほど使われていたのだ。
その頃の“習慣”だけが、
光となって残ったのだと考える者もいる。
第七章|議会棟の光は“誰かのために灯ったもの”なのか?

深夜に灯る議会棟の窓は、
誰のために灯っているのか?
職員・警備員の間では
ある共通の説が囁かれている。
■「亡くなった議員のための灯り」
北九州市の政界では、
数多くの議員が病に倒れたり、
任期中に亡くなったりしている。
選挙区が広く、
活動量も非常に多い地域だったからだ。
議員控室の明かりは
その議員が“最後に長くいた部屋”
が消灯後も“点けたがる”
という噂が他の自治体でもある。
そして北九州市役所でも——
「あの部屋は、最後まで帰れなかった人の部屋だ」
という噂が残っている。
彼らが残した“気配”が、
深夜に光となって現れるのだとしたら……?
【終章】

——議会棟の窓が光るのは、政治家ではなく“建物”の記憶のため
深夜の議会棟の窓。
そこに灯る淡い光。
その正体は、
亡霊でも、怪奇現象でもない。
これは、政治の火花が散り続けた
議会棟という建物が、
かつての時間を静かに反射している現象
なのだと考える方が自然だ。
議会棟は今日も静かだ。
だが“深夜の2時”にだけ、
その沈黙が破れる。
窓が淡く光り、
誰かが机に向かう影が現れ、
気配があるのに誰もいない。
その光は、
市政を支えてきた誰かの
“残された最後の仕事”のように、
ふいに現れて消えてゆく。
今夜もまた、
北九州市役所の議会棟の上階では——
誰のものでもない灯りが、
静かに、ひっそりと、
都市の闇の中で揺れている。




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